思わず発した一言に、心を打たれることがある。 こちらから、ねばり強く働きかける想像力を働かせて、相手の気持ちを感じとる「意外性」を演出する。
自分を受け入れるとゆとりが生まれる。 「相手を思いやる」には心にゆとりがなければできない。
相手のことが気になって、心安らかでない状態では、思いやる心を持てない。 「衣食足りて礼節を知る」と言うが、モノが豊かになったいま、人々は礼節を心得ているだろうか。
モノばかりでなく、心の豊かさが求められるのはそのためである。 コミュニケーションも、自分が豊かになってこそ、身につくのである。
豊かになるとはどういうことか。 第一に、いまの自分を受け入れることだ。

良くも悪くも、自分は自分である。 そこが、豊かな自分を目指すスタートラインなのだ。
自分が嫌いだと言う人がいる。 何かにつけて、自分がいやになるタイプである。
すばらしい話をする人に出会うと、「自分には、とてもあんなにうまく話せない。足元にも及ばない」そう思って落ち込んでしまうのだ。 コミュニケーション・セミナーの参加者の中にも、スピーチがうまくいかないと、「わたしって、ダメなんです」と自分を否定する人がいる。
そして、自分の殻に閉じこもり、孤立してしまう。 そんな自分がいやになって、いっそう不機嫌になったりする。
まわりも迷惑するが、自分がいちばん苦しいのかもしれない。 「わたしは自分の名前が嫌いです」と言う人もいる。
だからといって、その人の名札を、踏みつけたらどうなるか。 「何をするんですか」顔色を変えて怒った人がいる。
踏んだほうも踏んだほうだが。 自分の欠点を並べ立てる人もいる。
こちらがうんざりして、「それだけ欠点があったら救いようがありませんね。あなたって本当にどうしょうもない人なんですね」というふうに切り返せば、「自分が言ってる分にはかまわないが、他人から言われる筋合いはない」と間違いなく怒りだす。 自分が嫌いだ、自分はダメだと言う人も、心底そう思っているのではなく、なんとか好きになろうという気持ちと表裏一体なのではないか。
ある人が、自分がいやになって、生きる張り合いもなく、街をふらついていた。 行くあてもないまま、なんとなく入った書店で、一冊の本を手にとった。
聞いたぺ−ジに、「わたしは、自分に失望したことのない人聞を信用しない」と書かれていた。 偶然、目に飛び込んできた一行で、その人は自分をとりもどした。

欠点を気にしてばかりいたら身動きできなくなる自己嫌悪とは、「自分を好きになろうとして、もがいている姿」であると思う。 少なくとも、わたしは自分がいやになったとき、そう言い聞かせることにしている。
先日、社長たちの集まる会合で、奥湯河原に一泊の旅行があった。 誘われて、わたしも参加した。
全員、それぞれ一国一城の主であり、畳一口いたい放題の人たちであった。 今回は四十代半ばの若い社長が幹事だった。
彼は、五十代、六十代の社長たちに交じって、臆するところもなくのびのび振る舞っていた。 宴席でも、胸を張って上席につき、用事があればすぐに、何の遠慮もせずに、よく響く声で、「部訟!」と、奥湯河原でも格式ある旅館の女将を呼びつける。
率直で屈託がみんなから好感を持たれていた。 わたしはと言えば、彼のように奔放には振る舞えない。
気後れする相手がいると思うと、格好をつけてしまい、なかなかとけ込めない。 やがて自己嫌悪に陥って、自分の殻に閉じこもってしまう。

自分を受け入れることからすべてが始まる「いやな性格だ」自分でわかっていながら、なかなかそこから抜けられない。 しかし自分が気に入らないからといって、自分とつき合わないわけにはいかない。
そこで、わたしは自分に、「まあ、時間をかければ徐々にとけ込めるだろう」と思うのも自分とのつき合い方だと、言い聞かせることにしている。 欠点を気にしてばかりいたら、身動きできなくなる。
自動車王のへンリ−・フォードに、次のような言葉がある。 「欠点でなく、それを生かす方法を探せ」クルマはもとより、自分という人間に対しても、欠点を生かす方法を探して実行に移すことだ。
問題は指摘するが、それを解決する方法を示さない人間がいる。 こういう人は、「口ばかりで何もできない人」とみなされる。
英語、フランス語、スペイン語に堪能な若い女性がいる。 父親の仕事の関係で、子供の頃それぞれの国に何年か住んだのだという。
それにしても、日本語を含めて四か国語が喋れるのは、「すばらしい!」の一言に尽きる。 わたしは、思わず尊敬の念を抱いた。
しかし当の女性には悩みがあった。 「読めない漢字が多くて困ります。外国でなく日本の会社で仕事をしているのですから、人が読めてわたしだけがわからないのはショックですよ。いま、休みの日に四字熟語を勉強しています」どんな人にも、欠点や泣きどころはある。
要は、それらとはっきり向き合うことだ。 「わたしの話には奥行きがないんです。話に深みがなく、説得力がありません」三十代後半のビジネスマンはこう言ったが、心のどこかで、「深みのある話なんて、簡単にできるものではない」と思っている節があった。
「ダメだ」と言いつつ、「でも仕方がない」では、自分は変わらない。 一歩でも半歩でも、問題を掘り下げる努力・工夫をする。
そうすれば、少しずつだが話に奥行きが出るはずだ。 それをしないで、奥行きがない、深みがない、説得力がないでは、単なる愚痴ととられでも仕方がないだろう。
自分を受け入れることからすべてが始まる欠点を受け入れると同時に自分の良いところを探して、自分を好きになろう。 そうすれば、人にも仕事にも、コミュニケーションに対しても、積極的に向かえるようになる。

就職活動をしている学生と話をした。 「説明会に行ったり、面接を受けたりしていますが、ぜんぜん面白くないんですよ」「でも、就職はしたいんだろう」「ええ。ただ、就職しても自分の好きな仕事ができるとは限らないと思う」いまひとつ乗り気でないようだつた。
「きみ自身、本当にやりたい仕事、好きな仕事が最初からわかっているわけではないと思うが」「それは、確かにやってみなければわからない面もありますけど」「入社して、いくつかの仕事をこなしていくうちに、自分のやりたいことがはっきりしてくるんだよ。 職場というところは、仕事を通して自己を発見する場でもあるんだ」「そうすると、たとえば営業の仕事をしていながら、飲み屋のほうが自分に向いているとわかったら、どうするんですか」「どうしても飲み屋がやりたい。それが会社に勤めるよりも自分を生かす道だと思ったら、そのときは会社を辞めればいい。わたしの知っている男にも、会社に十年勤めて、ごく最近、先輩と一緒に飲み屋を始めたのがいるよ」「へえ、そうですか」「珍しいケ−スだけどね」「うまくいってるんですか」「この前も飲みに行ったけど、元気でやっていたよ」さらにこういう例も紹介した。
電通といえば、学生のあこがれる会社だ。 そこに首尾よく入社できたのだが、地方支局に配属になった男がいる。
彼は最初はショックで、毎日がいやでいやでたまらなかった。 なにしろ地方の小さな町だから、東京に比べたら、すべてが小規模で刺激がない。
おまけに、電通といっても、何の仕事をしている会社か知らない人が多くてびっくりする。

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